「磁気科学」研究グループ
担当: 藤原好恒, 藤原昌夫
主な研究内容
(これら以外の研究内容も進行中ですが,成果がまとまり次第掲載します)
「磁気科学」では,携帯電話や磁気カードなど生活に切り離せない磁気と,日常的に無意識に
受け入れている重力が研究対象です。強磁場を利用して地上の実験室内で作る微小重力空間の研
究は,宇宙船での無重力空間の研究と比べてはるかに容易,安全,安価に遂行でき,今後の宇宙
研究や産業を担う優れた環境場を提供しています。この強磁場の微小重力空間は宇宙の無重力空
間と異なり,強磁気力と微小重力の特徴を持ち合わせ,両者によって初めて出現する新規な現象
を観測できる複合環境場でもあります。
(1) 微小重力空間における物質や生体の磁気浮上
誰もが体験しているように通常は水などの反磁性物質は磁石に引き付けられません。ところが
実はそれは引き付けられないのでなく,わずかに反発しているのです。その反発力を強力な超伝
導磁石を用いて増強し重力と反対方向に作用させると,あたかも地上の重力が消失したような状
態(微小重力)となり水は空中に浮上します(水の磁気浮上)。写真は,超伝導磁石内で磁気浮
上した水の球を横から観察したものです。こうして,磁気浮上させた物質や生体に対する強磁場
と重力制御の複合環境場の研究を多角的に行っています。
強磁場によって浮上した水の球(直径7 mm)
強力な超伝導磁石内で側面から撮影
強磁場空間で宙に浮いたカエル
超伝導磁石の穴の上方から撮影
磁気浮上の実験を動画で見る(新しいウインドウが開きます)
(2) 植物種子の発芽・生長過程に与える強磁場と重力制御の影響
ダイコン種子の発芽・生長過程について,強磁場と重力制御の複合環境場の影響を検討してい
ます。その結果,強磁場そのものは発芽・生長を抑制すること,微小重力はその抑制を緩和する
ことがわかってきました。現在,複合環境場におけるメカニズムを検討しています。
磁場・重力制御環境における種子の発芽・生長
黒矢印は重力,白矢印は強磁場から受ける反発力(磁気力)の向きと大きさを示す
(3) 微小重力空間における配向機能性分子ドープ高分子薄膜の作成
強磁場による微小重力空間では,見掛け上重力が作用しないために,液体の表面現象が強調さ
れて現れます。そこで,その微小重力空間を利用して地上重力下では形成不可能な大きなサイズ
の純水薄膜を初めて作成できました。そして,この技術を利用して配向制御したカーボンナノチ
ューブをドープした機能性高分子薄膜を作成できました。新しい産業技術への応用が期待されま
す。
微小重力空間で銅リングに張った純水薄膜(直径25 mm)
重力方向:写真下向き
(4) ポルフィリンナノロッドの磁気配向と重力制御効果
ポルフィリン分子の会合によって生成するナノロッドは,図の白線で示されるように強磁場と
平行に配向することがわかりました。このように,強磁場はナノサイズの分子や分子集団を配向
させることできます。さらに,微小重力はその配向度を向上させること,そして過重力は15 Tの
強磁場でも配向しない短いロッドの配向を可能にすることがわかりました。これらは,強磁場と
重力制御の複合環境場としての効果と言えます。このような複合環境場は,機能性材料の秩序化
の新しい手法として注目を集めています。
ポルフィリンロッド(長さ1-20μm)の磁気配向の原子間力顕微鏡写真
(左)磁場外の無配向 (右)15T磁場中の配向
学士論文題目(平成20年度)
上村将史:微小重力環境下における2相液体球界面の形状観測とエネルギー計算
三宝雅子:強磁場による重力制御環境がカイワレダイコンの生長に及ぼす影響について
竹内晴留香:磁場下の微小重力空間を利用した固体薄膜の作成